「DCユニバース:リバース」


ドゥームズデイ・クロック。物騒な言葉から始まりましたが、現在DCコミックは大型クロスオーバー企画「DCユニバース:リバース」の新タイトルとしてこの「ドゥームズデイ・クロック」を発表しました。すでにツイッター上のDC公式アカウントなどからいくつかのページが発表され、11月以降に本格的な動きを見せるというこの企画は、80年代末期に誕生した伝説的なアメコミ「ウォッチメン」の世界とDCユニバースの激突を描いていきます。今まで完全に独立した世界という立場を貫いてきたウォッチメンのカヤラクターたちを、DCユニバースに招くために今作に至るまでにDCは様々な伏線をその前身であるNew52内に仕込んできました。今回紹介する「リバース」はその流れを組んだ最初の一冊であり、DCヒーローたちの新たな戦いの幕開けを示唆するプロローグ的な立ち位置をとるものとなっていました。

DCユニバース。この世界は、幾多にわたる再生と崩壊に苛まれてきた。かつて世界の垣根を崩した魔神「アンチモニター」と破壊神「ダークサイド」の激突もその崩壊の一つと思われた。これ以上に再生に耐えきれない世界は、しかし間一髪のところで防ぐことに成功した。この戦い位の最中、一人の男がユニバースに帰還する。彼の名はウォリー。かつてキッドフラッシュと名乗り、バリー・アレン=フラッシュのサイドキック(相棒)を務めた青年であった。フラッシュポイント以後、姿を消し続けていたウォリーは、自分の存在を現実の世界につなぎとめるために人々の記憶を探ってゆく。バットマン、キャプテン・ブーメラン、ディック・グレイソン。ついには失われた過去での恋人リンダと接触するも、誰も彼の存在を覚えてはいなかった。自らの消滅を覚悟した彼は、最後に親友であるバリーのもとへ向かう。ウォリーが自らの記憶と思い出に別れを告げる中、バリーは突如彼の存在を思い出す。再会を喜ぶ二人、だが、その喜びも束の間の出来事であった。ウォリーから告げられたそれは、ダークサイドや彼らの宿敵リバースフラッシュ以上の強大な存在が世界へ介入し始めているという事実であった。ちょうどその頃、バットケイブで物思いにふけていたバットマンは「フラッシュポイント」にて父、トーマス・ウェインの遺した手紙の裏から血のついたスマイルマークを見つけるのであった…。

この物語はキッドフラッシュことウォリー・ウェストが主人公を務めています。ある意味異世界モノのクロスオーバーの先駆けとも言える超大型イベント「クライシス・オン・インフィニットアース」にて三代目フラッシュを襲名した彼は以後のDCユニバースにとって切っても切り離せない存在となってゆくもNew52の世界においては存在が別人へと書き換わっていました。当初これはフラッシュポイントによる世界再構成が原因と思われてきましたが、この物語において全ての裏側にはあの「Dr.マンハッタン」が存在し、彼が絶えずDCユニバースに介入してきたという衝撃的な事実が判明します。補足となりますが、このDr.マンハッタンとは、ヒーローという存在がコスチュームを着た単なる常人である「ウォッチメン」世界における唯一の超人であり、原子に介入し過去や現在、そしてあらゆる未来を見通せるその力は、まさしく神の如き存在として恐れられています。

劇中、New52世界にも存在していたはずの「ティーンタイタンズ結成」や「もう一つのジャスティス・リーグ誕生秘話」は彼の介入によって消滅した、あるいは記憶から消去されたことがハッキリとします。そうまでしてなぜマンハッタンがこの世界に介入してくるのかは、今のところ全く不明でありますが、先日発表された「ウォッチメン」のその後の世界の現状が少なからず絡んでいるのではないかと予想できます。

ウォッチメンは、現実の世界にヒーローがいたらというシミュレーションを描いた徹底した重厚なドラマでありますが、そのもう一つの側面として時代を映す鏡のような社会派ドラマを形成したことでも有名です。当時のアメリカといえば冷戦やキューバ危機。冒頭にも書いた「終末時計」がまさに午前0時に差し掛かるか否かというギリギリの瀬戸際を歩んで来た混乱の時代でありました。そんな混沌の中でウォッチメンの物語はスタートしました。この世界の中で、単なるコスプレイヤーであるスーパーヒーローたちは世界のために何ができるか?この問題点や真実を原作者アラン・ムーアは容赦なく掘り下げていきました。最も人気の高いロールシャッハには腐った世界に対して、揺るがない信念を掲げる国家の象徴として、マンハッタンには極端な抑止を持った存在としてのあり方の象徴として…。それぞれのキャラクターに、現代世界を象徴するメタファーとして役割を与えていったのです。

「最後?何事にも最後などあり得ない」

この言葉を持って「ウォッチメン」の物語は終わりを迎えます。今作の性質を鋭く表した表現に思えてなりませんね。さて、そんな仮初めの平和を享受した「ウォッチメン」の世界はどうなったのか?得られた情報を抜粋してみましょう。

「ウォッチメン」終盤にて、世界を全面戦争の危機から遠ざけるためにエイドリアン=オジマンディアスが仕組んだ試みは何者かの手によって暴かれる。享受してきた平和が偽りのものと理解した人々は暴動を起こし、米ソは再び緊張状態へと陥る。同時期、ヨーロッパのEU体制は崩壊し、核を持った北朝鮮は世界共通の危機として認識されていた。さらなる混沌へと陥った世界の中で、ただ一人手記を記し続けるものがいた。彼はロールシャッハ。

端的に言って地獄絵図です。世界に対する問題提起を行うウォッチメンの役目は、今尚現役であるように思えますね。時代を映してきた世界に果たして何が起こったのか?そして、如何にしてロールシャッハは現れたのか?この先の展開が非常に待ち遠しく感じますが、続報を期待しましょう。

さて、だいぶ脱線してしまいましたが、紹介している「リバース」の中には、もう一人ウォッチメン世界から来たのでないかと?思われる人物が存在します。彼の名は「Mr.OZ(オズ)」。フードを被ったその姿は、全くの謎に包まれており、現在のところ彼自身から殆どの情報は開示されていません。しかしヒントは示されています。当初、この名前のアナグラムや使用するトレードマークから先にも挙げたオジマンディアスではないかと噂されて来ました。しかし、やたらスーパーマンに執着する様子や、クリプトン星人の得意技であるヒート・ヴィジョンを使用すると言った様子から、この線は薄れていき、現在ではスーパーマン=カル・エルの父であるジョー・エルがその正体ではないかと予想されています。ですが、決定打となる証拠は提示されぬまま引き伸ばされており、多くのファンをヤキモキさせています。この正体が判明した時こそ、彼らがこの世界に現れた真の意味が理解できるのでしょう…。

マンハッタンの真意と、オズの正体。これら二つは後に続く「ザ・ボタン」や各種「リバース」という形で徐々にではありますが、その全貌が明かされて来ました。オジマンディアス説、ジョー・エル説、あるいはオジマンディアスとジョー同一人物説(僕は彼の正体についてこう考えています)など数多くある諸説の真相も明かされる日が近いでしょう。DCユニバースの再構築を成し遂げたNew52の歴史は、失われてきた過去の歴史を掘り起こす「リバース」という世界に着地しました。常にヒーロー業界で、そして創作の面でもその先端をゆくDCの新たな試みを、今はゆっくりと見守りたいと思います。

 

「−彼らの存在を感じたんだ。姿は見えない。でも確実に存在している。虎視眈々と攻撃の機会を窺っている。今も…僕らを…監視(ウォッチ)している−」